2012年3月 Archives

情報共有の意味

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介護事故の対応については,医療問題での関係形成状態が参考になります。

医療問題では,伝統的で主従的な医療者と患者関係が,情報共有の妨げとなっています。圧倒的な情報・知識的優位性,医療行為上の優位性が医療者の側にあるからです。

 

すなわち,医療行為について,医療者が患者に対する情報を取得し,その情報を患者が知ることができないという,一方通行の流れが通常となっています。このような関係において,医療事故が発生した場合,患者側は当該医療行為を「知る」ことから始めなければならず,知識が追いつくまでには,医療者に対する不信が生じたり,迷い悩みが起こります。

 

この医療者に対する不信を招かないためには,介護者と高齢者との関係が,主従の関係を形成するのではなく,双方的な情報交換により,情報を共有して意思決定を行う協働的意思決定関係を形成していくことを促すことが重要です。

このようなことは,可能なのでしょうか。 

 

介護行為における安全管理は,介護サービス行為情報を高齢者側に開示するとともに,これに対する高齢者側の理解と判断を構築することにつきます。

たとえば,介護福祉士は,平成24年4月1日から医師の指示の下に,経管栄養(胃ろう)を行うことができるようになります。高齢者は,定期的に確実な栄養補給が可能となり,全身状態が改善します。

 

他方で,この経管栄養実施は,高齢者の胃に注入した栄養分を逆流してしまうケースもあり,これが肺を湿潤化させ,誤嚥性肺炎を引き起こすことがあります。プラス要因だけでなく,マイナス要因もあります。これらは,介護現場で十分説明されているでしょうか?「情報共有」が意味をなし,現実的に日常的に行われれば,介護者側と高齢者側との情報共有による信頼関係構築が,介護事故に対する安全管理に最も有効に作用し,重要な課題が解決する道筋となりえます。

 

  

弁護士法人龍馬HP http://www.houjinryouma.jp/

1 平成2312月4日,日本老年医学会において,AHN導入をめぐる意思決定プロセスに関するガイドラインが作成されました。

 

 AHNとは,経口摂取が困難となってからの人工的な水分・栄養補給(AHN: artificial hydration and nutrition)のことです。日本では,一般的に,治療ではなく食事の代替と認識されることが多いため、その差し控えや中止は医学的にも倫理的にも法的にも受け入れ困難と考えられてきたようです。認知症の終末期においては、AHN による生存期間の延長効果も限定的で、総合的には患者の不利益といわれることも多いようです。

 

 終末期医療の選択は人の生死に直結することです。そのため,①本人の自己決定権と②治療義務の限界という視点をもって,上記ガイドラインの問題点を指摘しておきたいと思います。

 

 

2 まず,同ガイドラインでは()医療・介護従事者は,患者本人およびその家族や代理人とのコミュニケーションを通じて,AHN導入に関する合意形成とその選択・決定を目指すとありますが,そもそも認知症高齢者を対象としている場合に,患者本人とのコミュニケーションが困難であると考えることが自然です。

患者本人が自己決定権を有する以上,本人が判断能力を有している時点において終末期に対する意思表明をすることを求める事が,その前提となるべきであると考えます。

 

 特に,AHN導入後の撤退(中止)は,直接死をもたらす決定となります。AHN導入時と同一のプロセスを辿ることで是とするものの,より具体的に本人・家族にAHN中止の根拠を明確に説明し理解を得られたかという意思決定プロセスを経て,かつ記録される事が重要です。具体的には,終末期医療における治療行為の中止を判断した川崎協同病院事件(最判2009127日)では,家族への情報提供不足,本人の推定的意思にも基づいていないとの指摘がなされています。

 

 

3 同ガイドラインでは(2)「本人の人生の物語りをより豊かにする」とか「撤退」という情緒的概念を用いて,「個々の事例毎に最善の選択肢を見出す」ともあります。

 

 確かに,同ガイドラインが倫理的妥当性を確保するためのものであるとすれば,かような表現でことが足ります。しかし,同ガイドラインが適用となる認知症者は,事前指示書を有する者か,あるいは同一生活を経た家族が存する場合です。ましてや,法的にも責を問われることはないと結論づけるには,①本人の自己決定権と②治療義務の限界が明らかにされなければなりません。そして,自己決定がなされていない事前指示のない認知症者で,かつ単身者の場合には,終末期医療に対する,将来の社会通念の醸成をまって,同ガイドラインのプロセスに載せるべきです。

 

 超高齢社会における単身世帯の増大は,家族のない人を増大させました。それゆえ,終末期医療における「本人の人生の物語りをより豊かにする」という判断は,より困難な状況にあることを踏まえるべきです。

 

 

4 さらに,終末期医療に対する社会通念の醸成のためには,本人が,人生の物語りの自分の最期となる生き方を,改めて考える契機となる事前指示書の普及が大前提となります。

 

 

5 なお,事前指示書作成にあたっては,適切な情報提供・説明と本人の理解が求められます。事前指示書作成の際には,本人のホームロイヤーとして弁護士が代理人となり,公証人による事前指示書(私署証書)の認証を受けるというプロセスを提案したいと思います。

 

 これは,遺言が死後の自己決定権の尊重であることに比し,事前指示書が終末期の自己決定権の表現として,事前指示書作成手続を遺言手続と同様の形式性をもたらし,同一の価値を認めることとなるからです。 

 

                        以上

弁護士法人龍馬HP http://www.houjinryouma.jp/

 

 

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