2010年10月 Archives

 認知症の人たちはこれまで“ひとりの人格をもった人間”として扱われてきませんでした。「認知症の人の人格は変化し,しだいに‘抜け殻’になってしまう」と考えられてきたからです。
 『認知症ケアの倫理』は,その偏見に対して,認知症の人を「ひとりの生活者」(p3)として尊重し,共に生きていく考え方と実践を著しています。
 
 私は『快適に老いる!』という小冊子で,「高齢者問題」を法的観点からその解決策を提示しました。箕岡真子著『認知症ケアの倫理』は,私が小冊子を編んだ起点となる事前指示書の道筋を包括的に発展させた著作であろうと考えます。

 人は「老いる」ことで,①記憶力・認知機能の低下や他の知的能力を失うことに対する不安,②自己認識(アイデンティティー)および自己コントロールを失うことへの不安,③身体的機能低下や苦痛に対する不安,といった“失うこと”への不安と常に向き合って生きていかなければなりません。


 箕岡氏は,認知症をきたした方の不安を少しでも和らげることができるような配慮と「彼らと共に在る(ある)」という姿勢を大切にしたい(p16)と考え,それは本書を著した目的でもあるでしょう。他方,西欧哲学におけるパーソン論では,「認知機能が失われた人は,その人の意見や考えが尊重されない“non-person”」とされました(pp74~75)。
 たしかに,認知症をきたした方は,個人としてみるとコミュニケーション能力や他者と交流すること,興味や関心の能力は低下しているかもしれません。しかし,家族やこれまで関わってきた親しい人との間では,その人が時々浮かべる微笑みや存在感は変わることがありません。

 読者は,箕岡氏の『認知症ケアの倫理』から,認知症の捉え方とそのケア,認知症をきたした方に向き合うための道しるべを見いだすことができるのです。

 

【amazonのURL 箕岡真子著『認知症ケアの倫理』】

http://www.amazon.co.jp/%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87%E3%82%B1%E3%82%A2%E3%81%AE%E5%80%AB%E7%90%86-%E7%AE%95%E5%B2%A1-%E7%9C%9F%E5%AD%90/dp/4863510292/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1288405681&sr=1-1

 

 

高齢者の住居問題

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 田舎に事務所を構えてから早3か月が過ぎた。
幹線道路沿いなので,目立つには目立つ。
空間もゆったりと緑もゆたか。
まだ,忙しくもないので気持ちよく業務を遂行でき,依頼者からも評判がよい。
秘書も快適に過ごしている。

 ただ,そこに甘んじるわけにもいくまい。
快適に見える姿は,アヒルの水かきのごとく,水面下で努力する必要がある。
高齢者問題に対する情報を発信しつつ,現場で奮闘している高齢社会のひずみを受け取っている。
 それでも,現場の問題が弁護士の元に届くことは少ない。
この垣根を取り払う術がまだみつからない。

 私は「かかりつけ弁護士」を高齢者の方々に提供したが,この情報が皆さんの元に届いていないようである。月5,000円の安心保険料(弁護士顧問料)も,まだまだ高いのであろうか。
 さらなる私の業務推進策は,衣食住の「高齢者の住居」をキーワードと捉えることである。実を言えば,「住居」問題は,私が弁護士となってから長年手がけてきた分野である。つまり,「高齢者」の「住居」は,二重の意味での専門分野となる。

 田舎事務所から情報発信するための研究を重ね,「終末期医療問題」とともに「高齢者の住居問題」に関する業務を開拓していこう。

 

高齢者虐待防止出前講座

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 10月14日特別養護老人ホームしんとう苑にて,内山社会福祉士とともに高齢者虐待防止出前講座を行った。介護士の方や地域包括支援センターの方など,20名が参加された。
 当職は,法律の専門家として「高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」の説明をし,社会福祉士が事例説明をするという役割分担でした。


 同苑には,すでに虐待により,養護者と高齢者の分離がなされ,措置により高齢者の方が入所されていた。ただ,本来であれば支援計画のもと,高齢者への対応がなされるはずであるが,現状不明なまま監護がなされている状況であった。そこで,今後の対応につき,質問がされ,措置から契約への移行の中で,ケアマネによる今後の支援計画が作成されるであろうという回答となった。
 本来,高齢者虐待に対応する責任部署は市町村である。しかし,現場において,高齢者虐待が知見される状況に至っても,解決の手だては見いだせない。あえていうなら,市町村において,手をこまねいている状況が伺える。


 これに対し,高齢者虐待防止法に基づき,相談通報等を受理すべき申し入れを行うという手だてを尽くすために,弁護士による法的助言が必要となり,かつ,具体的事例解決のために,高齢者虐待対応専門職チームによる助言が役立つことになる。その必要性を理解してもらうために,本件,高齢者虐待防止出前講座研修がある。


 地方公共団体には,高齢者の権利擁護支援予算が組まれているはずであり,行政においてこれら研修費用を負担すべきである。