2005年8月 Archives

法律問題をわかりやすく

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 パワーポイントで,法律問題をわかりやすく説明したスライドが,充実してきた。消費者問題だけではなく,個人情報,コンプライアンス等,「今」の問題をポイント説明している。
 そして,8月は,新たに「離婚」を取り上げた。養育費等の説明も,目安ではあるが,簡単に自分の場合はどうなるかが,わかるはずである。
 9月には,相続問題の概略を説明しよう。
 パワーポイントスライドを左頁に,説明を右頁に記載した「本」に結実すればと願っている。


群馬県消費生活条例改正に向けての提言に向けて  平成17年8月17日
   

第1 序
審議会において,群馬県に対し,現在を消費者行政の転換期と捉え,「群馬県消費生活条例改正に盛り込むべき事項」について提言したい。
そもそも,消費者被害が増加及び複雑・多様化,広域化している状況の中,消費者が主体的に市場に参画するといっても,消費者と事業者の間には,情報の質と量,更に交渉力等において依然として大きな格差がある。
しかも,事業者には,消費者の信頼を取り戻すため,市場の中でこれまで以上の公正性・透明性が求められており,消費者被害をもたらす悪質業者を排除し,公正な市場を実現させることが,事業者にとって望ましいことは言うまでもない。
上記視点に立ち,「群馬県消費生活条例」改正に向けて,次の5点を改正目標と捉える。

第2 条例に盛り込むべき事項として
 1 不招請勧誘
 (1)意見の趣旨
    不招請勧誘を不当な取引方法として指定する。
 (2)意見の理由
 不招請勧誘とは,事業者が消費者に対して,一方的に,電話をかけ,訪問をし,FAX,電子メール等を送りつけてくる方法により,当該事業者との取引を希望していない消費者に対して,契約の締結を勧誘することをいう。
 近時被害が多発し社会問題となっていた外国為替証拠金取引については,不招請勧誘による被害の典型事例である。同取引の被害が本県新聞紙上でも度々取り上げられている現状に鑑みれば,改正金融先物取引法が成立して不招請勧誘禁止ルールが立法化されたことに遅れることなく本県としても対応を行うべきである。また,不招請勧誘の一類型である「アンケート商法」,「点検商法」等が本県において増加傾向にあることが報告されており,かつ,高齢者に対する次々販売が大きな社会問題となっていることも踏まえれば,不招請勧誘に対する本県としての対応は必要不可欠である。
 すでに,大阪府,神奈川県,秋田県,埼玉県,滋賀県などでは不招請勧誘規制について議論がなされ,あるいは不招請勧誘規制が実現している。前記の本県の実情に鑑みれば,不当な取引方法に不招請勧誘を新たに指定し,不招請勧誘に対する条例規制を早期に実現すべきである。

 2 クレジットの悪用に対して
 (1)意見の趣旨
支払能力を超過した与信契約の締結を勧誘すること,及び違法な販売が行われている事実を知りうることができたにもかかわらず与信契約を勧誘すること等を不当取引行為として禁止する。
 (2)意見の理由
支払能力を超えたクレジット契約などクレジットの悪用をはじめとする近年における顕著な消費者被害への対応が急務である。
すなわち,商品購入等におけるクレジットの利用は,利便性がある反面,消費者被害の大きな要因となっている。クレジットを利用することで,支払能力を超過した高額の契約が可能となり結果的に悪質な事業者の営業活動を支えることとなっている。
これに対応するため,クレジット契約を利用した不当な取引を不当取引類型に新たに盛り込む必要がある。
なお,クレジット会社における加盟店管理責任を盛り込むとともに,県が勧告に従わない悪質な事業者について公表した場合,その旨をクレジット会社に通知する旨も規定することが必要である。
現金決済からローン決済へと三面契約が通常となった今日,消費者被害の拡大を防ぎ,かつ被害救済の実効性を確保するために,必須・急務の改正条項である。

 3 取引に関する条例違反の立証について
 (1)意見の趣旨
① 知事は,事業者が不当な取引方法を用いている疑いがあると認めるときは,事業者に対し,期間を定めて,当該事実の裏付けとなる合理的根拠資料の提出を求めることができる。
② 事業者が前項の資料を提出しないときは,当該事業者が不正な取引方法を用いているものとみなす。
 (2)意見の理由
 取引に関する条例違反の立証については,調査手続・立証責任の転換規定を盛り込むべきである。
景品表示法4条2項には,「不当表示の調査において,表示の裏付けとなる合理的資料の提出を求め,これが提出されないときは不当表示であるとみなす」旨の規定が設けられており,特定商取引法6条の2や12条の2においても,「不実の告知や誇大広告の調査において,その裏付けとなる合理的資料の提出を求め,これが提出されないときは不実の告知や不当表示であるとみなす」旨の規定が設けられた。
これは,行政権限を発動する場面において,事業者の広告表示や勧誘文句が適正であることの立証責任を事業者に転換したものであり,行政権限を行使しやすくする画期的な規定である。いわば事業者の情報提供義務を一歩具体化した規定であり,消費者関係の各種特別法(民事規定を含めて)においても導入が望まれ,まずは群馬県消費生活条例において,これと同様の規定を設けるべきである。
群馬県において,県民センター職員が数名であることからして,対応に追われる状況に鑑み,消費者問題に対する実効性確保の観点から改正必須条項である。

 4 訴訟援助制度
 (1)意見の趣旨
① 被害額を一定額以下に定める現行の訴訟援助制度要件を削除する。
② 消費者苦情処理委員会による斡旋又は調停前置を訴訟援助制度の要件としない。
③ 保全手続費用を援助対象とする。
④ 貸付金限度額を一人当たりの金額として定める。
⑤ 現実回収額が貸付金額を下回る場合に返還免除とする。
 (2)意見の理由
消費者が悪徳商法等で被害を受け,交渉等で解決しない場合,訴訟によって自己の権利の実現を図ることは,ひとり当該被害の回復に資するばかりでなく,悪質業者の排除,同種被害の予防,公正な市場の形成という観点からも有用である。
従って,県は訴訟援助制度の広報に努め,また,これまでその運用を妨げてきた諸事項の改善がなされるべきである。
① 現行条例は,少額被害の場合には訴訟関係費用が被害額に比して大きすぎて泣き寝入りをせざるを得なくなるとの考慮に基づき,1件当りの被害額が50万円以下であることを要件とするが,被害者の資力という観点から多額被害の場合も援助を必要とすることがある。被害額要件は削除されるべきである。
② 現行制度は消費者苦情処理委員会によるあっせん又は調停前置となっており,現実にはこのあっせん又は調停手続が実施されたことはなく,また被害者にあっせん又は調停申立権がない。そのため,訴訟援助制度が利用されたことも皆無である。
 あっせん又は調停を前提条件とする合理性はない。なお,消費者苦情処理委員会によるあっせん又は調停を活性化するために消費者による申立権を定めるべきである。
③ 消費者被害にあっては加害業者が資産隠しを図って被害回復を妨げることがしばしば見受けられる。従って,保全手続が必須となる。現行の民事訴訟費用・弁護士費用等に加えて,保全のための費用が援助対象とされるべきである。
④ 被害者が多数となる消費者被害は少なくない。また,弁護団を組んで対処しなければならない事案が益々増加しつつある。
 このとき,多数原告の一人にのみ50万円を限度として貸し付けるとする現行制度は極めて不十分である。前述した訴訟援助制度の公益的有用性を鑑みれば,限度額を定めて各原告に貸し付けるべきである。
⑤ 消費者被害にあっては加害業者の経済基盤は極めて脆弱であることが多い。従って,判決等による確定額を基準として返還免除を定める現行制度は消費者に酷である。現実回収額を基準に返還免除の有無を定めるべきである。

 5 事業者公表制度
 (1)意見の趣旨
① 知事は,事業者が不当な取引行為を行っていると認め,その不当な取引行為による消費者の被害の発生・拡大を防止するため必要があると認めるときは,消費者に対し,速やかにその不当な取引行為,商品等の種類その他必要な情報を提供する。
② 知事は,事業者の不当な取引行為により,消費者に重大な被害が生じ,又は生じるおそれがあると認めるときは,消費者に対し,速やかに,事業者の氏名,名称,住所その他消費者が必要とする情報を併せて提供する。
 (2)意見の理由
① 消費者被害の拡大防止・未然防止には,迅速かつ適切な情報提供が不可欠である。特に,消費生活センターに寄せられる苦情相談等を基に,悪質業者の情報や欠陥商品の情報を積極的に県民に公表することは,非常に重要である。
② 最近激増している架空・不当請求は,不法に入手した個人情報に基づき,有料アダルトサイトの利用料金請求書を多人数に送りつける手口であるが,短期間に甚大な被害をもたらしている。また,悪質住宅リフォーム業者その他訪問販売の形態による消費者被害,商品先物取引や外国為替証拠金取引等の名目で多額の資産を騙し取る手口等も増加している。更には無料で商品を配布すると偽り実際は高額な商品を買わせる催眠商法(SF商法)の販売会,更にマルチ商法の説明会等がその実体を隠しながら開催されることも少なくない。これら悪質商法の被害者は,当初は相手方業者の悪質性について誰からも知らされることなく,被害にあっている。従って,このような消費者被害を防止するためには,一定の要件の下,直ちに,事業者の氏名,名称,住所その他消費者が必要とする情報を提供できることを規定することが重要である。
③ 誤った情報公表に伴う自治体の責任との関係で,一定の手続きを通じた,自治体の免責要件を定めることも必要である。
④ なお,同様の規定は,既に秋田県においても制定されている。

第3 結語
消費者を取り巻く環境が社会情勢に応じ大きく変化したこと,それに伴い,消費者被害が年々増加している現状を重く受け止めている。
群馬県においては,今後の条例改正作業において,この提言書に記載した内容を十分盛り込み,県民にとってわかりやすく使いやすい条例を制定されることを強く望むものである。
社会状況の動きは非常に速く,消費者をめぐる予期せぬ課題は,今後も次々と生じることが予想される。群馬県においては,条例改正等による対応を含め,消費者政策の場において時機を逸せず,適切に対処されるようお願いする。
とりわけ,現在,国において集中的な審議が行われている消費者団体訴訟制度については,被害の救済及び拡大防止のため,非常に重要な制度であり,条例改正による速やかな対応が求められていることを付言する。