2013年4月 Archives

親亡き後の問題と成年後見

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1.20133月、弁護士法人龍馬がバックアップした高崎市市民後見人養成講座が修了し、27名の高崎市市民後見人候補者が誕生しました。昨年の9月から、7ヶ月間、弁護士法人龍馬のネットワークメンバーが講習をした結果です。

 

2.そもそも、成年後見制度の根幹は「自己決定の尊重」と「権利擁護」、「ノーマライゼーション」にあります。

障がい者を対象とした支援費制度、自立支援制度では当事者の意思を尊重した契約が重視されます。しかし、知的障がいにより判断能力が低下した「契約に支援を要する者」に「自己決定=自己責任」論を押付けることはできません。

そこで、福祉サービス利用者の権利擁護を目的として、成年後見制度があるのです。

 

3.この成年後見制度は、欠陥だらけです。知的障がいの子どもを持つ親としては、自分が亡き後、子どもが安心して生きていけるように、すぐにでも成年後見制度を利用するはずなのに、一向にそういう人が増えません。それはこの制度に次の欠陥があるからです。

①後見人報酬が高い。

後見人(家族後見は除き、第三者後見人を指す)は弁護士・司法書士・社会福祉士に委託されますが、その報酬は月1万円から5万円です(資産、業務内容による)。しかし、知的障がい者は障害基礎年金がその収入のほとんどで、就労収入は極めて少ないのが現実です。そして、その障害基礎年金から生活費を支払い、衣服費やたまの娯楽費を支払ったら月々手元に残るお金は15千円くらいです。とても後見人報酬を支払うことなど出来ません。

②市町村の成年後見制度利用支援事業が充実していない。

身寄りのない認知症の高齢者や知的障がい者を守るために、「成年後見制度利用支援事業」が市町村に課せられていますが、充実にはほど遠いというのが実情です。

 

4.さらに、知的障がい者の場合、次の問題点があります。

①知的障がい者は、知的機能の障がいが発達期にすでに見られ、日常生活に支障があり、特別な援助を必要とする状態が継続しており、長期間にわたって何らかの支援が必要であること。

②その支援については、認知症高齢者のように「今まで生きてきたように、最後の数年間を援助する」ことが、その人の自己決定であろうと「推定」することができないこと。

③法的にいえば、20歳で親権から抜けた後、措置制度もなくなった現在においても、何らかの法的保護が必要であることに変わりはないこと。

④これまで親が子 の一生を抱え込んで、全責任を負ってきた現実があり、本人が自分の人生を決定していく経験がないこと。

 

5.以上の成年後見の欠陥や知的障がい者固有の問題点を解決するためには、

「親亡き後、安心できる法人による第三者後見人をいかに確保するか」にかかっていることになります。

①家族があれば、家裁の認定を受けて後見人になるでしょう。しかし、親亡き後、安心できる第三後見人を確保するためには、行政(市町村)による成年後見制度利用支援事業の活性化といった課題を解決する必要があります。

②また、成年後見制度は市民後見人個人の善意や努力に依存するものであってはならないでしょう。

③市町村の「成年後見制度利用支援事業」を活性化するために、市町村議員やマスコミへの働きかけが必要でしょう。

④後見人になるためには家庭裁判所の認定を受けなければなりませんが、成年後見の内容に関する解釈も家庭裁判所の支部によって温度差があります。家庭裁判所の書記官や調査官の意識を高めなければなりません。

⑤「成年後見制度利用支援事業」は、市町村が単独では市民後見人の育成が困難な場合などに、群馬県が広域的な支援の観点から、市民後見人の養成や活動支援を行うことを求めています。

 

※ 障害者総合支援法第28条の2:市町村は、・・・民法に規定する後見、保佐及び補助(以下この条において「後見等」という。)の業務を適正に行うことができる人材の活用を図るため、後見等の業務を適正に行うことができる者の家庭裁判所への推薦その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

 2 都道府県は、市町村と協力して後見等の業務を適正に行うことができる人材の活用を図るため、前項に規定する措置の実施に関し助言その他の援助を行うように努めなければならない。

 

6.高崎市における法人後見

27名の高崎市市民後見人候補者は、弁護士法人龍馬がサポートする「NPO法人あかり」の法人後見支援員を兼ねています。この市民後見人候補者兼法人後見支援員の方々は、社会貢献の意欲をもち、かつ、ノーマライゼーションが何であるかを学び、被後見人の現有能力を活かすことができるメンバーです。

それゆえ、高崎市においては、知的障がい者の子を持つ親が亡くなった場合、①継続性を有する法人の下、②社会貢献できる支援員が、以上の成年後見の欠陥や知的障がい者固有の問題点を克服することができるでしょう。

弁護士 小此木 清

弁護士法人龍馬HP:http://www.houjinryouma.jp/

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