ユーザー (#2)2010年9月 Archives

ゼミと出前講座

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第一,消費生活相談員ゼミナールを行いました。

 

1,相談員は,消費生活相談という特定分野の専門的知見を有する専門職である。

消費者関連法の改正が毎年のように頻繁に繰り返され,新手の消費者被害が次々と登場するなど,絶えず専門的知見の向上に向けた実務的な研修が必要な職務である。それゆえ,平成22年度は,前年度の前橋地区の研修に続いて,高崎地区8名の研修と太田地区8名の研修をすることになった。

 

 2,私とすれば,新たな消費者関連法に関する知識の伝達に留まらず,現代社会のひずみから生ずる問題意識を共有したいと願っている。

 今回のメッセージは,「脆弱な消費者」の存在の是認である。すなわち,脆弱な消費者である「自己」つまり個々人の責任よりも「社会」としての責任・役割を求めていきたい。消費者被害の課題でいえば,個々人の能力を高めることで被害を防ぐこと以上に,いかに被害を起こさせない社会を構築するか,不運にも被害に遭ってしまった場合にいかに周りの人が助けてあげられるか,を重視した社会を築き上げることである。

 

 3,特に,一人暮らしの高齢者は,脆弱な消費者の典型である。齢を重ねるにつれ,取引に対する判断能力が劣化していく。高齢者から,消費生活相談員に対し,直接被害救済のためのヘルプコールを求めることはできない。それゆえ,高齢者の周辺にいる人がその状況を確認し,ヘルプコールを消費生活センターへつなげなければならない。そして,相談員も個別案件の解決を通じて,消費者被害をもたらす悪質な業者に対する包囲網を築き上げるべきであろう。

 

 4,私は,新たな消費者関連法の研修をきっかけに,この消費者被害の解決手だてを明確に伝えていきたいと願っている。

 

第二,高齢者虐待防止出前講座

 

 1,高齢者虐待防止出前講座が,社会福祉士・司法書士及び弁護士で構成される高齢者虐待対応専門職チームでこの秋から行われる。高齢者虐待に対応する責任部署は,市町村である。しかし,現場において,高齢者虐待が知見される状況に至っても,解決の手だては見いだせない。あえていうなら,市町村において,手をこまねいている状況なのである。

 

 2,この状況を打破するためには,専門職チームが市町村に対し,高齢者虐待防止法に基づき,相談通報等を受理すべき申し入れを行うという手だてを尽くすことになる。高齢者虐待防止法7条から明らかなとおり,市町村には通報を受理しない権限がない。通報者が匿名であっても,必ず受理しなければならない。受理により,高齢者虐待の対応がはじまるのである。

 

 3,今年度の高齢者虐待防止出前講座は,専門職チームとして,はじめて関わる課題となる。確かに,弁護士にとって,高齢者虐待に関わる経験は,数少ない。しかし,高齢者虐待対応の窓口となる市町村に対し,法的に構成した申立ができる専門職として弁護士が関わることは有効であろう。

 

                                 以上

 特定商取引法3条の2第2項では,
訪問販売において,契約を締結しない旨の意思を表示した者に対する勧誘禁止が定められた(法3条の2第2項)この「意思を表示」に該当するためには,意思表示の対象や内容が明らかであることが必要であり,単に「訪問ステッカー」等を掲示することは該当しないとされている。

 つまり,現段階では,消費者庁が,この法律の運用指針で、「訪問販売お断り」といったシールを玄関に貼っても訪問販売拒否の意思表示として認めることはできないと判断しているというわけだ。

 これに対して,群馬県条例の改正では,「訪問販売お断りステッカー」無視した勧誘を「不当な取引方法」として条例違反とし,消費生活センターに通報できるシステムを構築しようとしている。

 そして,群馬弁護士会では「群馬県消費生活条例施行規則の一部改正を求める会長声明」において,「判断能力が低下した高齢者などは,ひとたび業者からの勧誘に晒されてしまうと,詐欺的かつ強引な勧誘によって契約を締結させられてしまうおそれがある。不当な勧誘自体を事前に防止する必要性は非常に高い。『訪問販売お断りステッカー』等に実効性を持たせ,これを住居等に掲示している消費者に対して勧誘を行うことを「不当な取引方法」として禁止することは,被害の事前防止のために効果的であり,かつ必要な規制であるとした。私も,本件,群馬県消費者生活条例施行規則の一部改正に賛同するものである。

弁護士業務の職域拡大

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  司法試験合格者数の増大に伴い,合格者が既存の法律事務所に就職できない事態が多数生じている。日弁連は,合格者数を3000名から1500名へ減員すべきと舵をきろうとしている。また,司法修習生の給費制度廃止の撤回を求めている。いずれの主張も良き時代の過去への回帰である。それが可能であれば,それもよい。

 私は,他方で,日弁連や各地の弁護士会が,より積極的に弁護士業務の職域拡大に粉骨砕身すべきものと考える。業務が拡大できれば,弁護士数の増大は望ましいことになるであろう。また,弁護士が公共的活動に多くの時間を割くために,それなりの公費が確保されるべきである。具体的には,弁護士費用の支払いが困難な貧困問題や消費者問題,さらには,高齢者問題に対して,弁護士を利用するにあたり,医療健康保険と同様な仕組みをより活用することにより,市民と弁護士との間の敷居を低くすべきである。また,司法修習生への学費貸与後に,公的活動をすることで支払免除の仕組みをつくりあげれば,若手弁護士の国選や扶助活動の充実化にも役立つであろう。方策は,多様な選択肢があるはずで,それをいかに実践するかにかかっている。

  しかし,現在,このような弁護士からの意見を耳にする機会は少ない。添付した新聞や市民の声からは,弁護士内部の主張が一般社会の現状とかみ合っていないことを示している。

  私は,職域拡大のひとつとして,高齢者問題への取り組みを開始した。ただちに成果のあがる領域ではない。ただ,高齢化社会が急速に進展する中で,弁護士が活躍できる場がそこに広がっていることは明らかである。この取り組み速度を高めなければならない。

 

【添付資料】
司法試験合格者数と職域問題
日経新聞 朝刊 15頁

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