ユーザー (#2)2011年12月 Archives

  2000年4月,高齢者社会福祉政策は,措置から契約へと転換した。しかし,介護現場の人たちや,高齢者の家族は,契約であることの意味とはかけ離れた状況におかれている。すなわち,介護は,与えられるものではなくなり,自ら契約をしてその履行を求めるものとなったが,介護現場は,従前の福祉状況にとらわれ,その福祉の痕跡を引きずってきている。

 

例えば,医療契約では,患者の側から医療の側へその治療行為を求めるが,介護契約では,高齢者側から介護者に対し,いわば,その恩恵を受ける意識が根強く残っている。

 

私が経験した場面では,介護認定のための訪問審査がある。高齢者が介護認定を受けるにあたり,市町村から地域包括支援センター員が高齢者宅を訪ね,審査を受けるが,当該高齢者や家族は,介護というその恩恵を受けることを潔よしとしない。そのため,日常の自分を表すことなく,外行きの面を見せてしまう。その結果,本来,当該高齢者の介護認定等級を受けることができない。

 

 介護現場においても,当該高齢者に付き添う介護士でさえ,市町村からの判定員に対し,当該高齢者の日常を表明することができないのである。私が,高齢者の成年後見人として介護認定審査に立会いをし,判定員の意見に対し,当該高齢者の本来の姿を口出ししたさい,はじめて,介護士もまた,自ら意見表明してよい場面なのだと気づき,状況説明をし出したことがある。なるほど,介護現場という自分のフィールドにあってさえ,お上の判定に口を挟むことを差し控えさせられている現状がそこに存した。

 

 介護保険が介護現場に入り込んでから,すでに,11年が経過してはいるが,介護現場にいる高齢者や家族,そして,介護士にさえ,未だ措置という福祉の幻影が色濃くのこされている。

 

 私は,これからの介護現場では,本来あるべき介護契約の下,その介護という履行がなされなければならないと考える。それは,介護契約にあたり,契約当事者相互が,つまり,高齢者・家族と介護者が,その契約内容を理解し,また,その契約上の限界を確認しあうことが,もっとも必要であるということである。例えば,高齢者の介護にあたり,身体拘束等を用いることなく介護するには,介護者が当該高齢者を24時間見守ることができないのであるから,同人の転倒の危険性が増すことになる。しかし,それは,高齢者の自立と自由を確保することとの表裏の関係による。介護者側に専門家としての介護義務があるとしても,それは,医療関係者の専門家義務とは異なり,積極的な治療契約ではないという,むしろ,消極的な見守り負担を果たすことを主とする介護契約という内容である。したがって,介護者は介護契約にあたり,その内容をきちんと説明し,高齢者側の理解を得ることが必要となる。

 

 措置の時期において,お上の恩恵であったから,「知らしむべからず」だったとしても,契約に転換した以上,当事者双方が説明とその理解を前提としなければならないし,それが,むしろ,それがもっとも重要なことである。そして,契約当初だけでなく,介護の月毎になすべき家族会議等の機会に,経過報告という説明を充実すべきであり,さらに,介護事故が生じた場合には,時宜を失することなく,その報告と説明をしなければならない。

 

 この視点より,『介護事故と安全管理』という題で,今までの判例等を素材に来春までにまとめたい。

 

弁護士法人龍馬HP http://www.houjinryouma.jp/

 

 

1.

  わたしの2012年の新しい取り組み3つのうちの1つが,「介護事故」問題である。

 

  例えば,介護事故により,介護者が目を離した隙に,高齢者が転倒により大腿骨を骨折し,寝たきりとなり,誤嚥し,肺炎の結果死に至る。

 

 日本人の年齢層別の死因の構成割合からは,高齢者では,肺炎による死亡割合が非常に大きい。家族で介護していても,高齢者への介護事故により,転倒や誤嚥がおき,肺炎により死亡に至る経過をたどる場合が不可避的に起こりうるからである。そこで,施設であれ,家族の介護であれ,「介護事故」から高齢社会における日本人の「死に方」を俯瞰することができる。

 

現時点では,構想段階であり,今後の研究過程で変化・熟成していくであろうが,今の発想を記載しておきたい。

 

2.

 「介護事故」が不可避的に起こりうると記載したのは,例えば施設の介護者も高齢者3人に1人の割合で配置された場合,一人の見守りをすれば,他の二人から目を離すことになり得る。もちろん,そこに不注意(過失)が認定されなければ,損害賠償保険金の支払いも発生することがない。

 

 つまり,介護事故の判例上,損害賠償責任が生ずる場合と,損害賠償保険金が支払われることで,介護者の不注意(過失)が認められる場合とが混在している。それゆえ,施設は,高度な注意義務違反がある介護事故から,いわゆる不注意事案まで含めた場面での安全管理が求められるが,その水準は,一般人の注意義務(善管注意義務)をもって介護すべきと考えるのである。

 

 なぜなら,介護保険施行後の措置から契約へと移行した際,家族の介護の手を離れて,社会による介護となったに過ぎず,その介護の程度は同等と考えるべきだからである。施設介護者の介護は,本来家族の介護を前提とすべきであり,高齢者もまた,それを望んでいる。

 

ただし,施設との契約時,施設介護者は高齢者本人及び家族に対し,介護に対する安全管理を十分説明し,同人らの理解を得ることが必要となる(説明責任)。そして,介護事故が発生した場合には,ただちに,施設介護者から高齢者本人及び家族に対し,介護事故原因の報告・迅速な連絡・事故対応の相談がなされなければならない。

 

3.

  その上で,施設側のリスクマネージメント(安全管理)を検討していくことになる。

それは,医療過誤における医師や看護師の専門家責任というものではなく,高齢者の家族から漠然と専門的介護があるであろうとされる領域の中で認められた注意義務だからである。介護の専門性が求められている状況では,異論もあろうが,あえて,介護というものに,高齢者の自己決定権・自律の尊重やノーマライゼーションの価値を優先させたいからである。

 

 例えば,転倒を防ぐには,高齢者をベットや車いすに拘束することが容易な安全性確保のための手段である。しかし,高齢者の自己決定権・自律の尊重するには,彼がベットで自由に行動できることを優先し,安全性は別の手段を選択することで確保しなければならない。介護を行う者は,その価値の位置づけを間違えてはならない。

 

 それゆえ,介護は,安全性のみを強調することができず,高齢者の自律との調和のもとに存在し,介護の専門性もその枠の中で意味づけられることになる。

 

4.

  したがって,日本社会の基盤であった家族社会から契約社会へと変貌する過程において,介護事故を検証していくことは,超高齢化社会における「死に方」にかかわる問題だといっても過言ではない。

 

 

弁護士法人龍馬HP http://www.houjinryouma.jp/

 

 

 

安愚楽牧場被害対策ぐんま弁護団は,依頼された方の債権届の提出を既に完了しいたしました(12月2日発送)。

なお,群馬弁護団の現在の依頼者の合計は70名となっています。

今後とも,全国弁護団などと協力をしつつ,被害回復を図るべく活動を行っていきたいと思います。

よろしくお願いいたします。

 

 

 

 

第1 市民後見のあり方
 

 厚生労働省は,2012年4月1日,全市町村で市民後見推進事業を開始する。認知症高齢者や一人暮らし高齢者の増加に伴い,成年後見制度の必要性は一層高まってきており,その需要はさらに増大することが見込まれる。また,今後,成年後見制度において,後見人等が高齢者の介護サービスの利用契約等を中心に後見等の業務を行うことが多く想定されるからである。
 こうした成年後見制度の諸課題に対応するためには,弁護士などの専門職後見人がその役割を担うだけでなく,専門職後見人以外の市民後見人を中心とした支援体制を構築する必要がある。

 この市民後見人制度推進にあたり,国及び地方公共団体は,公的費用負担の下で,市民後見人の養成に止まらず,支援・監督等の一貫した体制を構築し,中核となる拠点(センター)を設置・運営すべきであり,そのポイントは次の6点にある。
①公的責任の下での市民後見制度整備 
②中核拠点設置による養成・支援・監督など一貫した組織的支援体制の整備
③市民後見人養成における研修内容の充実
④中核拠点における専門職の連携の必要性
⑤市民後見人の積極的役割,及び地域社会への制度の啓発活動
⑥成年後見ネットワーク構築及び地域権利援護システムの確立

第2 龍馬ネットワーク


 1.ところで,私は,昨年(2010年1月6日),弁護士法人龍馬を立ち上げ,その際,龍馬ネットワークを構築した。龍馬ネットワークメンバーは,医師・社会福祉士・司法書士・税理士・公認会計士などで構成される。同年7月1日,冊子「快適に老いる!」を発行し,高齢者問題全般を,ライフワークとした。
 上記冊子は,以下の内容を中心としている。


  第二章 “龍馬”からのススメ…認知症になる前に
   一 事前指示書
      二 ホームロイヤー契約
        三 財産管理契約
        四 任意後見契約
        五 遺言
  第三章 新たなしくみ…会社を守る,老後資金確保
       一 遺言信託・事業承継
       二 リバースモーゲージ
  第四章 相続法の仕組み…争族を防ぐ知識
       一 相続
       二 遺産相続
  第五章 高齢者を守る仕組み
       一 消費者被害
       二 虐待対応
       三 成年後見

 2.しかし,弁護士1人が成年後見業務を行う件数は非常に限られている。そのため,私は,自ら得た成年後見業務に関する知識・経験を活用して,高齢者問題の増大に応じ,広く普及させたいと考えるようになった。
 そして,2011年7月,高齢者問題を取り扱う専門家のネットワークをつくり,かつ,冊子で啓蒙普及をしてきたことが,この市民後見人養成支援業務に結実されてきつつある。
 形成してきた龍馬ネットワークによって,第1で述べた市民後見制度推進のポイントを十二分にクリアできるからである。

①公的責任の下での市民後見制度整備
 私は,厚労省のモデル事業の1つである玉村町市民後見人推進事業にオブザーバーとして参加している。玉村町の責任の下で,市民後見制度が整備されつつあり,東京大学の政策ビジョン研究センターによる市民後見人の育成がなされてきた。
 ただ,地域に根ざした市民後見推進事業とは異なるため,地域における後見支援組織の整備,すなわち,具体的な市民後見人への支援・監督体制に欠ける懸念がある。
ここでも,地域の弁護士として,このモデル事業の成功への協力がいかにできるか模索中である。
 
②中核拠点設置による養成・支援・監督など一貫した組織的支援体制の整備
 龍馬ネットワークによる,市民後見人育成・支援事業を行うにあたり,既存のNPO法人認知症ケア研究研修連絡協議会に協力を求めた。具体的には,2012年2月,同NPO法人の定款変更により,認知症ケア専門士の育成とともに,市民後見推進事業を担う団体として活動を開始することである。
 その拠点は,弁護士法人龍馬ぐんま事務所に置き,市民後見人に就任した方々が後見業務を行う際に生じた問題解決への支援並びに,監督を行う。

③市民後見人養成における研修内容の充実
 龍馬ネットワークメンバーは,高齢者を守るために,消費者被害,虐待対応,成年後見などの対応が可能な経験豊富な専門家である。さらに,東京大学の政策ビジョン研究センター特任助教宮内氏や地域の高崎健康福祉大学教授金井氏の協力を得る。つまり,実務と理論の第一人者によるメンバーにより,市民後見人養成研修を行う予定である。

④中核拠点における専門職の連携の必要性
  すでに述べたとおり,市民後見人養成支援事業を行うNPO法人の拠点に,後見業務の専門職が参集している。市民後見人となった人との専門職との連携は容易となっている。

⑤市民後見人の積極的役割,及び地域社会への制度の啓発活動
 養成した市民後見人には,特に,市町村申立による後見人に就任できるよう,積極的支援を行っていくので,公的費用の下で育成した市民後見人が市町村の高齢者問題解決に積極的役割を果たしていくことになる。さらに,地域に根ざした方々が市民後見業務を行うことになるので,同制度の啓発を兼ねることになる。

⑥成年後見ネットワーク構築及び地域権利援護システムの確立
 すでにその業務を確立した既存の団体や組織が,新たな共通の業務に向けた体制を組むことは困難である。龍馬ネットワークを中心としたNPO法人は,成年後見ネットワークをすでに構築しており,かつ,認知症ケア専門士を育成する組織とタイアップすることにより,対象者である認知症高齢者に対する地域権利擁護システムとして最適の団体となっている。それゆえ,龍馬ネットワークを中心としたNPO法人が,地方公共団体から市民後見推進事業の委託を受けることにより,地域権利擁護システムが確立する。

                                                                                                   以上