ユーザー (#2)2015年6月 Archives

カンボジアの学校は,午前・午後の2部制となっています。そのため,生徒は半日しか学校で教育を受けられないことになります。裕福な家庭であれば,足りない教育を私費で受けさせることもできるかもしれません。しかし,多くの家庭ではそれはできません。このような教育格差を是正するために活動している日系のフリースクールにも訪問させていただきました(写真)。子ども達の屈託のない笑顔がとても眩しかったです。

 

 ところで,最近,海外で活躍する日本人の特集をよくテレビで目にするようになりました。この日系のフリースクールの活動のように,まだまだ知られていない日本人の海外での活動がたくさんあるのではないでしょうか。今回の視察にて,カンボジアにて活躍されている方々とお会いしてそう感じました。

 

 今回の視察は,現在,王立法経大学日本法教育研究センターにて活動されている篠田弁護士の取り計らいにより,実現することができました。海外視察は,現地でのコンダクターがいないと中々実現することは難しいことで,先生には本当に感謝しております。また,カンボジア法整備支援の活動の担い手であるJICA(国際協力機構)の法律アドバイザーとして赴任されている裁判官・検察官・弁護士にも歓迎いただき,また,興味深いお話をお聞きすることができました。法整備支援の活動は,カンボジアのみならず,ベトナム・ウズベキスタン・ラオスなどでも行われているとのこと,このような責任ある重要な国際貢献を担っている方々にも,頭が下がります。

 

 今回のJICAへの視察がきっかけで,逆にカンボジア法曹関係者の群馬弁護士会への訪問も決まっています。地方レベルでの法曹の国際交流はほとんど皆無といってよく,こういったことがきっかけで国際交流が進めば素晴らしいですね。

 

 ここのところ毎年,仕事から逃げるようにして,私費で参加している各国訪問の活動ですが,小さな小さな活動が,地方と海外を繋ぐ突破口になればよいと思います。

いつか予算がつくことがあるでしょうか 笑  

 

弁護士 金 井   健





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 ところ変われば裁判変わる?

 

 裁判傍聴芸人である阿曽山大噴火さんという方の話は面白いですね。弁護士からみて当たり前になっているようなことでも,一般の人にとっては珍しいことが多いようで,視点が斬新です。でも,裁判って,日本の裁判を当たり前に考えていると,また外国で傍聴すると全然違って驚きます。

 

 まず,法廷の構造が違います。下の写真は,許可をもらって撮影したカンボジア初級審内の様子です。まあ,どちらかといえば日本に似ている方でしょうか。しかし,証言台の柵がやや高く感じます。また,写真では写っていませんが,裁判官の頭の上のところに国王の写真が掛かっています。さらに,写真には出入口も写っていますが,傍聴席には出入り口はありませんでした。裁判中に法廷内を傍聴人が出たり入ったりするのは違和感が…裁判に集中できないし。

 

 裁判の手続きについては,当然クメール語だったのでよく分かりませんでした。刑事裁判で黙秘権の告知はあったかな?民事訴訟法は日本ととてもよく似ていますから,民事事件の手続は似ているはず?まあ,ここら辺は少し傍聴しただけでは分かりません。

 

 判決文はどうでしょうか。神木先生によれば,カンボジアの判決には理由がほとんどなく,日本のそれと比べると論理に欠けているとか。法律があっても,裁判官がそれをきちんと適用できていない可能性があります。しかし,法の適用には明らかな過ちを指摘できることはあったとしても,これが正解というのはないでしょう。これは,法整備支援活動の難しさなのでしょうね。

 

 そして,これは信じがたいことではありますが,随所で聞かれる話では,裁判を受けるにあたって,裁判官にお金を渡すことがよく行われているというのです。これでは公正な裁判が行われようはずがありません。これが本当かどうかは分かりませんでしたか,しかし,そういうことがまことしやかに言われていること自体が,この国の司法権に対する信頼の低さを物語っているように感じました。

 

 裁判官の金銭の授受は賄賂に他なりませんが,こういうことが行われる背景には,法曹資格になるために多額のお金がかかるため,かかった費用を取り返すために行うという話も聞きました。試験に合格するために試験管にお金を払っているとも…負の連鎖ですね。ちなみに,カンボジア弁護士会でこのような事実があるか聞いたところ,きっぱり否定されました。

 

 最近、ヒューマンライツナウという団体が,ユニクロやジーユーと取引のあるカンボジアの工場で重要な人権侵害が行われているという疑いがあることを発表しています。カンボジアの司法権がしっかり機能していないことが,このような人権侵害の温床になっていると思われるところでもあります。

 

つづく

 

弁護士 金 井   健


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弁護士資格が国際ライセンスになる日は来る?

 

 さてさて,近年,発展著しいカンボジアでは多くの外資系企業が進出しています。日本企業の進出も増加しています。しかし,企業の進出にはリーガルリスクがつきものそんなときに心強いのは,現地法に精通している専門家です。

 

 私たちは,カンボジア唯一の日系法律事務所にも訪ねることができました。この事務所のパートナーである神木弁護士は,カンボジアの弁護士と協働して主に日系企業などに法律的なアドヴァイスを行っているとのことです。神木弁護士は,クメール語も堪能で,法文も原文のまま読むことができます。

 

 カンボジアの弁護士資格を有する者は,約900名程度(うち女性は180名程度)とのことでしたが,その中で外国語,特に日本語のできる弁護士はいたとしても極めて少ないでしょうから神木先生のように現地語の話せる日本弁護士の存在はとても重要です。他方で,カンボジア弁護士会では,カンボジア国内で外国弁護士資格ないし資格すらないものが活動していることに敏感になっています。

 

 カンボジア弁護士会の会長にお会いした際は,まず最初に外国弁護士の話題でしたから,関心の高さが伺えます。そして,カンボジア弁護士会では,特定の国の弁護士がカンボジア国内で活動したければ,カンボジアの弁護士がその国で活動できるよう協定を結ぶよう求めているようです。ちなみに,現在,そのような協定を行っている国はないとのことでした。しかし,パリの弁護士会とは前向きに話し合っているとのことです(リップサービス?)。

 

 「その国での活動」がどのようなことを意味していたのか(その国の法廷に立てるということなのか)までは判然としませんでしたが,他の国の弁護士資格で日本の法廷に立てるなんてことを認めようとしようものなら日本弁護士連合会は大反対でしょうから,協定の締結は極めて困難なことだと思います。しかし,仮に,パリの弁護士会がそのような協定をカンボジア弁護士会と結んだとしたら,法整備支援主導国である日本はどのような対応をするのでしょうか。

 

 また,このような協定が全世界で進んだらどうなるだろうかと妄想してしまいます。勿論,私が生きている間にそのようになる可能性は低いと思います。しかし,長い目でみれば,法曹資格はやがては国際資格となっていく可能性もあります。

 

 今,日本では,弁護士の数をこれまでよりも少し減らしていくような議論がなされています。もちろん,人数の問題ではないですが,来たるべき時代に備え,また議論を先導して行くには,ある程度の弁護士数を確保しておくことは必要なのではないかと思ってしまいます。

 

弁護士 金 井  健

 

つづく

 

 プノンペン市内は,インフラも急ピッチで開発が進む。今のところ,カンボジアに進出する日本企業は,現地の日本人を主な顧客とする場合が多い。そのため少ないパイを奪い合うことになる。徐々にカンボジア人向けにシフトしていくだろうか。




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 法を支えるのは人材

 

 今回私たちは,カンボジア王立法律経済大学内にある名古屋大学日本法教育センターにもお邪魔させていただきました。同センターでは,25名程度の同大学の学生さんが,日本語で,日本の歴史だったり,憲法などの基礎法だったりを学んでいるそうです。これも法整備支援の一環に位置づけられる重要な活動です。

詳しくは,こちら

 

想像はしていましたが,実際に行ってみるとビックリします。日本語で,会話は勿論,法律の講義をしても通じる訳ですから。訪問団からは,日本の労働法講義を提供しました。もちろん日本語で。ちょっと難しい内容でしたが,学生は皆熱心に聞いてくれました。こういう学生さんの姿を見ていると,それに比べて自分の学生生活はと反省しますね。今の日本の学生さん達は大丈夫でしょうか。

 

さてさて,学生の構成比は圧倒的に女性が多かったです。どこの国でも外国法(語)に興味を持つのは女性が多い?のでしょうか。そして,講義の終わりに,学生さん達に将来何になりたいか聞いてみたのです。外交官,通訳、検察官,裁判官、商社マン…いろいろありましたが,印象的だったのは,「首相になりたい」という女性が2人もいたことです。日本だとこういう発言をすると次の日からあだ名が首相か大臣になりそうですね。

とにかくこれは素晴らしいことだと思いました。日本では女性の首相はまだいないので,是非,日本よりも先に女性の首相になって下さいと伝えてきました。

 

それともう一つ印象的だったのは,弁護士になりたいと言った学生さんがいなかったことです。これは私たちにとってはとても残念なことでした。これはいろいろな理由があるようですが,一つは,カンボジアにおいて弁護士になるのはとてもお金がかかるというのです(この問題はまた次回以降)。

また,法律学者になりたいという学生もいなかったかと思います。新たな民法・民事訴訟法が制定されて,次は,メイド・イン・カンボジアの解釈学を発展させていかなければならないときですから,その担い手である法律学者がセンターの中から出てくればいいなと感じました。

 

最後に,私は,カンボジアの法律学が,日本の明治期にあたることになぞらえて「Boys and Girls,be ambitious!」って言い放って去ろうか思ったのですが,流石に自分は何様だろう?と思って止めてきました。

むしろ,この学生たちと競争できるよう勉強せねばと,反省するのでした。

 

 つづく


 弁護士 金井  健


 カンボジアの人は日本人に比べても華奢で小さい人が多いので,大学生がとても幼く見えます。


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 法律が一緒だと結論も一緒?法はどのように生まれ,実現するのか。

 

 カンボジアといえば何を思い浮かべるでしょうか?あまり思いつくところがない人でも,「アンコールワットがあるところ」と言えば多くの人が想像できるかもしれません。

 実際,アンコールワットはカンボジアの象徴になっています。国旗にも描かれていますし,アンコールビール,アンコール航空など重要な企業名にもその名前が入っています。

 

 日本とカンボジアとの繋がりといえば何を思い浮かべるでしょうか?猫ひろし?ちょっと前に,『地雷を踏んだらサヨウナラ』という,カンボジア内戦で亡くなったカメラマン・一ノ瀬泰造の生き様を描いた映画がありましたね。

 今は日本企業も多く進出しています。プノンペンにはイオンモールがあり,東横インもあります(行ったときは建設中でした)。

 

 それでは,カンボジアと日本の司法の繋がりをご存じでしょうか。かつて1970年代~80年代ころにかけて,カンボジアでは,激しい内戦がありました。そこでは,多くの知識人が殺され,国家の制度も滅茶苦茶になりました。そして,一から社会制度を作り直さなければならなかった新政府が,民法及び民事訴訟法の起草の援助を求めたのが日本なのです。そして,日本の専門家が中心になってカンボジアの民事訴訟法(2006年公布)・民法(2007年公布)が起草されました。結果として,カンボジア民法や民事訴訟法は日本のそれによく似ています。

日本は,現在も法整備支援として,民事関連法の制定や裁判官や検察官・弁護士といった法曹の養成を援助しています。法整備支援について詳しくは,法務省のHPをご覧になって下さい。

http://www.moj.go.jp/housouken/houso_houkoku_cambo.html

 

 さてさて,私たちは,このような両国の繋がりから,今回カンボジアの司法機関に訪問する機会に恵まれました。日本の支援によって法制度が整備された(されている)国の現状を見るのはとっても楽しみで,実際多くのことを感じたので,ブログではとっても簡潔にそれを書ければと思っています。

 

 少し話を戻しますが,法整備支援の成果によってカンボジアの民法・民事訴訟法は日本にそっくりです。でも普通の人が考えたら,突然、他の国の法律を持ってきて上手くいくの?その国の人は受け入れられるの?と思いませんか?

 実際,「ただ法律がある」というだけでは世の中はあまり変わらないのです。法律があって,法律文言を解釈する人たちがいて(主に学者など),それを適用する人たちがいて(主に行政・司法機関)初めて法が実現するのだと思います。したがって,法律が同じということが=同じ帰結になるという訳にはならないわけです。結果として,広い意味で日本の民事のルールとカンボジアの民事のルールはほど遠いと思います。

 また,考えてみれば,日本の民法も元はフランス民法とドイツ民法のハイブリット(1898年施行)でした。その後,我妻栄という日本社会の実態に合わせながらドイツ法由来の統一的解釈を行った優秀な学者が現れて,解釈学が大幅に進歩しました。そして,その後も,数々の議論や実務での運用に揉まれ,民法施行後110年以上経って,近々債権法が改正されようとしているというのが日本民法の現状です。

 このように,法律は,ただその法律(成文)があって実現する,「生まれる」ということはないのだと思いました。同時に,それが,法整備支援の難しさにもなっているようです。その点は次回以降。

 

 つづく。


 弁護士 金井 健

 

写真は,プノンペン市内リバーサイドのレストランより。川の向こうでは開発中のビルが建っているが,レストラン側は植民地時代の影響を残すフランス調の建物が並んでいた。法律についても,カンボジア労働法などはフランス法の影響を強く受けている。

 

 



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