過払債権者申立による金融会社(上毛ローン)破産の顛末

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      過払債権者申立による金融会社(上毛ローン)破産の顛末
                                       
                                                                                         弁護士 小此木 清 

1 上毛ローン被害対策弁護団は,平成20年8月8日,前橋地方裁判所高崎支部に,上毛ローン上毛與信株式会社(群馬県高崎市島野町988-1,群馬県知事(9)第00054号,以下「上毛ローン」という)の債権者破産を申立て。東京地裁に移送後,平成20年(フ)第14934号事件として受理され,現在,管財人のもとで清算手続が進行している。
  平成20年春から秋に至るまで,上毛ローンは,廃業,再開,株式譲渡,第三者の介入,弁護団による債権者破産申立,再生申立による巻き返し,再生申立取下,管財業務の進行,と荒波に揉まれた。日弁連メーリングリストCAM上で,上毛ローン前代理人からの投稿などにより刺激的状況が記載されていたが,本報告書にて,客観的事実を取り上げ,上毛ローン破産にいたる時の流れを追う。
  申立代理人弁護士数17名,弁護団団長は鈴木克昌弁護士で,本報告者は副団長である。
2 上毛ローンは,群馬県内資本で最大の貸金業者であり,顧客は約1万2千名,利息収入が年間20数億円であった。上毛ローンは一貫して出資法規制の上限ぎりぎりの高利で貸付を続けて利益を上げており,群馬県内で多重債務者の相談にのるとたいてい債権者として登場する業者だった。
  近年は,過払金返還請求訴訟が多数提起されていた。
3 前経営陣の迷走
  平成20年4月上旬,上毛ローン前経営陣は,会社清算を決意。
  4月23日,同社は,取引銀行に対し,債権譲渡し(消費者金融顧客債権),同月24日債権譲渡の登記(第2008-13682号)をした。
  4月25日,同社は松本弁護士(CAMにて投稿済みであるので実名記載)に清算業務委任。業務停止し,全社員解雇。
  4月28日,同社は,群馬県商政課に対し,廃業連絡。
  延滞している過払返還金について,「貸し付け業務を再開しない限り,現金はなく,支払えない」と述べ,今月以降の返還が不可能になる見通しを示すとともに,同社は貸出債権を別の貸金業者に譲渡する方向で検討している旨,表明。
  同社は,業務を停止し,2店を閉鎖。電話も自動音声による応答のみで,店頭には貸付金の返済先の口座番号を載せた文書が張られていた。「振込口座も大口債権者の銀行の管理下にある」とされ,松本弁護士預かり口口座を開設して顧客に返還先をして連絡した。同時に判決や和解による債務名義のある分を含めて,すべての過払金の返還を停止した。
  5月12日,弁護士17人が,「上毛ローン被害対策弁護団」を結成した。上毛ローンに対し,過払金返還を促すことと,現在の借り手が利息を払い過ぎないように保護することが目的。
  5月13日,上毛ローンが突然業務再開を意思表明し,全社員の再雇用を図る。
  6月10日,株式会社オーロラ代表取締役竹原氏(ホームページ上で公開されているので実名記載)が,上毛ローン経営陣に対し,株式の譲受申入。
  6月14日,弁護団が上毛ローン代理人と交渉。過払金の返還と貸付債権の利息制限法引き直し計算による顧客保護を要求。任意整理方向での協議を模索。
  7月8日,株式会社オーロラ代表取締役竹原氏は,旧経営陣に対して,持ち株の有償買取と退職慰労金の支払い約束をした。
  7月22日,竹原氏と上毛ローン旧経営陣による株式譲渡契約締結。
  7月27日,松本弁護士は解任となり,後の上毛ローン代表者竹原氏との攻防・錯綜状況となる(CAM投稿文参照)。
  7月28日,上毛ローン顧客に対し,借入金返済口座を,松本弁護士預かり口口座から,(株)オーロラの子会社の有限会社サンヨー口座へ変更。
  8月4日,上毛ローンの代表者に,旧経営陣から株式を取得した竹原氏が就任した。竹原氏は過払金返済に言及せず。
4 過払債権者による破産申立・保全管理命令申立
  8月8日,弁護団は,破産手続開始申立を前橋地方裁判所高崎支部へ提出。
  弁護団とすれば,地元で管財業務を処理するよう強く申し入れたが,同日,東京地方裁判所へ移送決定がなされた。
  8月13日,弁護団が裁判官と面談。
  弁護団は保全管理命令を強く求めたが,東京地裁によれば,保全管理命令は,債権者申立では,会社にとって死刑判決にも等しいので出せないとのことであった。
  8月14日,弁護団員から,上毛ローンに対し,動産強制執行申立。本社にも現金はほとんどなく執行回避のために別に管理していることがうかがえた。
  8月29日,弁護団員申立で,上毛ローンの(有)サンヨーに対する上毛ローン顧客の借入金返済口座(有限会社サンヨー名義)の預託金返還請求について債権差押え執行。しかし,(有)サンヨーからは,差押えにかかる債権の存否について「ない」との回答があった。後日,差押え当日に預金を引き出していたことが判明。
  9月3日,上毛ローン代表者竹原氏の債務者審尋。竹原氏が,(有)サンヨーから資金を引き上げ,個人資金と上毛ローン資金を混在化している点を指摘。
  9月17日,上毛ローン代表者竹原氏から弁護団代表者に対し,懲戒請求。理由は松本弁護士と癒着している,配当の少ない破産を申し立てることは弁護士倫理に反するなどというもので明らかに破産回避のための恫喝であった。
  9月22日,東京地裁にて,第2回債務者審尋。裁判官は竹原氏に対して,過払金の支払いをしない以上支払い不能と見なさざるを得ないと警告。しかし,竹原氏は,過払債権者に対して過払金を払えないのではなく,払いたくないのだと明言して支払いを拒否。裁判所は,破産手続開始決定。
  10月10日,上毛ローン(竹原氏)による再生手続開始申立,調査委員による調査開始。
  10月22日,上毛ローンの過払金は完済分も含めて約12億円にのぼるとの計算結果判明。
  10月23日,再生手続の申立取下。破産手続の続行が確定。管財人による清算手続が粛々と進行している。
5 課題
  弁護団は,今後以下の課題に取り組んでいく。
  ① 管財人に対し,顧客に請求する前提として利息制限法による引き直し計算をすること,及び顧客からの取引履歴開示請求に応じて過払債権者に債権届出をさせることを要求。
  ② 金融機関の上毛ローンに対する債権譲渡・債権譲渡担保契約による配当優先主張に対し,異議を述べるとともに,利息制限法違反の貸付に資金提供してきた金融機関の責任を明らかにするよう要求。
  ③ 上毛ローン旧経営陣や同族関係企業への責任追及。
6 まとめ
    上毛ローン債権者破産申立後1ヶ月後に,三和ファイナンス対策弁護団が三和に対し債権者破産申立をした。三和側は,申立債権額プラス1割の支払いをするとして破産回避をした。
  過払債権者による破産申立は,過払金の支払いを免れようとする金融業者に対する追及方法として,有効な一手段となった。
                                                                                                                            以上

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