舟木諒: 2013年12月 Archives

  事業者には悪い制度?

 

 弁護士の舟木諒です。
 差止請求権や新法による集団的消費者被害救済制度は,よく「消費者対事業者」という対立構造で捉えられる場面が多いです。しかし,多くの良質な事業者にとっては、メリットを有するのではないでしょうか。
 すなわち,第1に事業活動の活性化が期待できる点です。消費者が泣き寝入りや不当な損失を強いられる結果,消費者は,消費に躊躇せざるを得ず,ひいては市場の低迷化をもたらします。しかし,違法行為がなく,消費者が安心して消費活動を行うことができる市場が整備されれば,市場が活発化し,事業活動の場が拡大するといえます。
第2に不正業者の退場・再配分です。「法令に違反する」悪質な勧誘等を行っている事業者を市場から退場させることができれば,当該消費分を正当な事業者で再配分することができます。差止請求も新法の請求も「法令違反の行為・条項」であったり,「本来返さなければならない利益を被害者に返す」ものを対象としているに過ぎないからです。
   さらに,近年,コンプライアンスの重要性が指摘され久しいですが,適格消費者団体の差止請求は、各種消費者保護法の「法令違反行為」を対象にします。したがって,その活動や情報は,自社のコンプライアンスを徹底する観点からも有益といえます。
   この点,新法の制度を日本版クラスアクションなどと弊害を危惧する声もありました。しかし,アメリカのクラスアクションでは,消費者が誰でも原告になれるという点が違います。また,アメリカのように,一弁護士が広告等を駆使して被害者を集めて,弁護士主導で訴訟が始まるといったこともありません。さらに,アメリカでは,民事陪審員による裁判のため,その結果が予想しにくいこと,ディスカバリーなど訴訟遂行の段階で莫大に費用がかかることから,事業者側が和解に持ち込むことが多いようです。そのために,当初から和解狙いの訴訟が濫発されるようですが,この点も日本とは全く異なります。
   新法では,濫訴防止策を設けることが附則に盛り込まれました。もとより,濫訴が起きにくい制度のはずですが,濫訴の定義を緩やかにすることで,本制度が事実上使えなくなるというようなことがないように望みます。

  弁護士法人龍馬HP http://www.houjinryouma.jp/

 

 

  
   集団的消費者被害救済法の成立
 
 
 弁護士の舟木諒です。
 集団的消費者被害救済法(正式名称:消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続きの特例に関する法律)が12月4日成立いたしました(施行は3年以内)。
 消費者契約法において,適格消費者団体は,不当条項等の差止めを行うことができるのみでした。すなわち,将来の被害防止を行うことはできても,現実に被害に遭った消費者の回復を行うことはできませんでした。
 しかし,新法によって,消費者の現実な被害救済を取ることが可能になります。具体的な手続きは,2段階にわたります。
 まず,第1段階では,「特定適格消費者団体」が,「事業者の共通義務」について訴訟提起をします。例えば,授業料を入学辞退の時期如何に関わらず,一切返還しないとしているA学校法人に対して,「3月31日までに辞退した者に対し,授業料を返還する義務があることを確認する」といった判決を求めることが考えられます。
 この第1段階で事業者が共通して支払う義務があるということが確定すれば,その後,第2段階で,個々の消費者の具体的損害額について確定し,被害回復がなされます。
 個々の消費者は,第2段階の手続に参加するまで何の負担もありません。すなわち,「事業者の消費者に対する支払義務」の存在を確認してから,参加すれば良いのです。したがって,これまで,費用対効果の点から,弁護士への依頼,訴訟提起をあきらめ泣き寝入りをするしかなかった消費者にとっても,被害救済の道が開かれます。
 制度の適用場面は,慰謝料や人身損害は対象から外れるなど,限定的な側面も否めませんが,まずは大きな一歩だと本制度の成立を喜ばしく思います。
 
消費者庁HPより   http://www.houjinryouma.jp/
 
弁護士法人龍馬HP  http://www.houjinryouma.jp/

 


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