欧州視察報告

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2012年7月12日

 

世話裁判所の審問手続と日独シンポジウム報告書

 

弁護士 小         清 

 

 

第1 世話裁判所の審問手続

1 ベルリンWEDDING地区の裁判所へ訪問

  2012年5月4日,ベルリンWEDDING地区の裁判所にて,被世話人に対する裁判官の審問に同席した。もちろん,裁判官が被世話人に対し,本件審問の際,日本から来た我々の同席につき,被世話人自身の承諾を得た上での同席である。

  審問事案は,次のとおりである。被世話人は,現在25歳前後で,幼き頃,孤児であり,一度は里親の元,生活したが,何らかの事情により再度孤児院へ舞い戻り,成年となった。しかし,このような経緯からまともな教育を受けることができず,判断能力にも困難があった。今回の審問は,被世話人が世話人の判断によらずに自らの判断による生活を送りたいので,世話の終了を求めた事案である。裁判官から被世話人に対し,この自己決定により生活を成り立たせることができるか否かにつき,丁寧な審問がなされた。その上で,裁判官は,この被世話人に対し,このような審問が二度となされることのないよう期待する旨の言葉を贈り,審問室から送り出したのである。(写真1,2)

2 ドイツ世話法の趣旨

  世話法は,成年者のための後見及び保護を,「世話」という新しい法制度に置き換えた。そして,本人の自己決定権を尊重し,行為能力剥奪・制限の宣告を廃止した。世話人は原則として被世話人の希望に応じるべきであり,世話人選任は,本人の審問及び厳密な事案の解明を要件としている。日本から来た我々は,まさに自己決定権の尊重がなされた審問の場面に同席できたのである。

 

第2 2012年5月3日,日独シンポジウム「世話法の20年間」

 アンネ・アルガーミッセン氏(ドイツ連邦法務省,世話法担当課長)から世話の増大によるコストの問題につき,問題提起がなされた。

「世話法」20年間は,130万人の被世話人を作り出した。その結果,ドイツでは,コストの問題に直面している。130万人の被世話人が本当に必要なのか,今問われているのである。学際的ワーキンググループによる構造上の改革が求められており,世話官庁が窓口となって,世話をすべきか,他の予防的な社会福祉的配慮によって世話制度を回避することができないかとの判断が重要となっている。

 具体的には,世話人を指定する前に他の社会福祉的配慮すなわち福祉給付により世話の制限を義務づける。さらに,ケアや給付内容を官庁の方から積極的に開示し,コストに関わるオプションを提案することで改善につなげるとのことであった。

 

第3 日本の成年後見実務

 ドイツで見聞できた裁判官による審問では,行為能力の制限・剥奪をすることなく,個人の尊厳である自己決定権が尊重されている。これに対し,日本では,裁判官自らが審問を行うことはない。さらに本人の判断能力に関する鑑定も推定相続人間での争いが存しない限り重視されることはない。つまり,ドイツでの世話実務は,本人の自己決定権の尊重の元に運営されているが,日本の後見実務では,財産管理に偏重し,審問対象が本人ではなく推定相続人に向けられていると言わざるを得ない。

 また,ドイツでは,被世話人の増加の結果,コスト問題が最大の難問となっている。しかし,日本では,本人が福祉給付を得るために,後見人等が選任され介護契約を締結すべき必要性が認められる。すなわち,コスト問題以前に,市民後見人養成等,今後の成年後見人数の増加を図るため,環境整備が求められているのである。

以上

 

ベルリンWEDDING地区の裁判所 
報告書添付1.JPG

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視察団,裁判所前にて

報告書添付2.JPG

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