認知症ケアシンポジウム『認知症の終末期医療-自分の最期の生き方を考えるために-』

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  認知症ケアシンポジウム『認知症の終末期医療-自分の最期の生き方を考えるために-』(2011年6月16日昼の12時半より一橋ホールにて開催予定)において行われる私の担当部分「終末期医療と自己決定権」の抄録原稿を掲載する。

 

1 終末期医療には,「生きる」ことに対する価値観の対立がある。一方は,生命それ自体を尊重する価値観や一分一秒延命させる医の論理から,できるだけ患者の生命・肉体の機能を維持すべきことになる。他方は,質を尊重する立場や過剰医療と考える立場から,患者に対し肉体的・精神的苦痛の大きい治療はせず自然のまま死を迎えるべきとする価値観であり,前者と対立する。

そして,延命治療に対する自己決定権尊重の観点からは,第1に,判断力ある人,事前指示書ある人の選択が尊重される。第2に,判断力・事前指示書のない人に対しては,本人の意思を推認できる家族の同意が求められる。

 

2 しかし,終末期医療に対して,高齢社会化とともに単身世帯の増大は,家族のない人を増大させ,2000年の介護保険法及び後見に関する法の施行以降,家族による介護から,社会による介護へと大きく基盤を移行してきた。

ところで,お金も余裕もある人は,自分の最期の生き方を考えることができ,終末期医療に対し事前指示書を残すことができる。これに対して,お金も余裕もない人は,終末期医療に対する問題意識を持つこともない。

そこで,自分の最期の生き方を考えることができるお金も余裕もある人に,終末期医療に対する事前指示書を普及させ,その影響のもと社会通念へと醸成させ,法的整備へと波及していくことを期待する。

 

3 そのためには,終末期医療に対する同意の意義・手続が整備されなければならない。本人が,自分の最期の生き方を考える契機となる事前指示書作成にあたり,適切な情報提供と説明が求められ,それが本人の意思決定となる。手続にあたり,本人のホームロイヤーとして弁護士が代理人となり,公証人による事前指示書(私署証書)の認証を受ける。

これは,遺言が死後の自己決定権の尊重であることに比し,事前指示書が終末期の自己決定権の表現として,事前指示書作成手続を遺言手続と同様の形式性をもたらせ,同一の価値を認めることになる。

 

4 本人による終末期医療に対する意思が明らかとなれば,延命治療に対する家族の苦しみが軽減され,過剰医療に対する抑制ともなる。

しかし,家族の同意は,終末期医療に伴う家族の経済的・精神的負担が影響し,後日の問題を発生させる。川崎協同病院事件における家族の同意の認定は,第1審判決と第2審判決とで事実認定が食い違う結果となるなど,微妙な問題を孕む。

また,後見人に医療同意権が与えられていない現状では,後見人の同意がないことを以て,逆に医療の抑制,すなわち認知症患者に対する大腿骨骨折の手術をしない等の理由とされる。

 

5 以上の問題意識のもと,終末期医療に対する本人の自己決定としての事前指示書,家族の同意,後見人の同意に関し,問題点を明らかにしつつ,医療同意法及び患者の権利に関する法律大綱案を検討したい。

 

以上

 

弁護士法人龍馬HP http://www.houjinryouma.jp/

 

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